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2017年12月 7日 (木)

『大航海時代 ~ノルウェーの乙女ソルヴェイグ 世界一周の航跡』 第五章「World Clock」

第4章「ソルヴェイグの記憶」からのつづき



「World Clock」



――私はもう、待たない。


アタシはベッドから跳ね起きた。
頭の中で、時を告げる教会の鐘の音が何重にも共鳴して、うるさいほどに鳴り響いていた。

艦長室を飛び出たアタシは、天井のハッチを押し上げて後部デッキに登った。
ちょうど目の前にいた船員の一人が、油の染みついた古いデッキブラシで甲板の汚れと格闘しているのが見えた。

「あなたは、……だれ?」

アタシの声に振り向いたその男の顔は、知らない顔だった。
「ひでえなあ、そりゃないですぜ? 自分の船の人間の顔も忘れちまうなんてよ。朝から寝ぼけてるんですかい? ソルヴェイグ提督」日に焼けたシミだらけの男の顔が、ひどく醜い怪物のように歪んで見えた。
「あなた、名前は? 生まれは?」
「おいおい、勘弁してくださいよ。あっしはデッキブラシの野郎とのデートで、提督の冗談に付き合ってる暇なんてないんすから」

「まあた提督の『いつものあれ』がはじまった」アタシと男のやりとりをヤードの上から眺めていた船員たちの口から、どっと笑い声が漏れた。
その男たちの顔もみんな、アタシの知らない顔だった。
「おいおまえ、老いぼれデッキブラシの相手はいいからよう、目の前の女神様の質問に答えてやれや」
「しゃあねえなあ」男は面倒くさそうに言って、アタシに向かって白々しく敬礼をした。「私の名は、ポール・スミス。出身はスコットランドのエジンバラ、1603年生まれの29歳……独身であります。提督閣下殿」

「29歳……。ということは、今は『1632年』なの?」



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……やっぱりそうだ。

「あの夢」から醒めたあと、外の世界が「別の時代」に変わっている。
「あの鐘の音」が頭の中で鳴ったとき、アタシとペール・ギュント号だけが、「違う世界」に丸ごと移り変わっているのだ。

「女王様は? 女王陛下はいらっしゃるの?」アタシは、ポールと名乗った男の襟首を鷲掴みにして両手で揺さぶった。
「じょ……、女王様って?」
「エリザベス1世女王よ!」
「い、いったいなにを言ってるんですかい? 女王様は、あっしが生まれたころにはもう……。今は、チャールズ1世様が国王陛下様で……」
ふざけて笑っていた船員たちも、アンカー(錨)を結ぶ太いロープのような男の首を吊るし上げんばかりに絞めつけている女のアタシの気迫に圧倒されたのか、全員が無言でその光景を見つめていた。

アタシは、血がせき止められて真っ赤になった男の首を放すと、船尾のハッチを駆け下りて、奥の部屋の扉を激しく叩いた。
ほどなくして扉が開き、薄暗い部屋の中から、アタシの知っている顔が現れた。

「ウィルカ? ウィルカなのね?」アタシは安堵して、暗がりの向こうの彼女に寄りかかった。
「やっぱりあなたも。『別の世界』から来た人間だったのね。最初に会ったとき、直感したのよ。あなたもアタシと同じなんだって」
「……そうだとしたら?」
「こんなにうれしいことはないわ。時代が変わっても、あなたといっしょにいられるのだから。……どうやら、私たちが眠っているたった一晩の間に、54年の月日が流れちゃったみたいよ」
「そのようですね」ウィルカは、昨晩と同じように無感動な様子だった。

「それで、これからどうするおつもりですか、提督」
「こうなってしまった以上、どうすることもできないわ。もう30年も前に、女王陛下はこの世からいなくなってしまっているのだから。今からインドに行ったところで、この書簡を届ける相手も向こうにはいないだろうし」

「どうして、そう決めつけるのです?」ウィルカが、アタシの持っている書簡を見据えて言った。「その相手は、提督がインドに来るのを今でも待っているかもしれないのですよ。現に、女王陛下から賜ったその書簡も、提督の手の中にちゃんと残っているではありませんか」
「それはそうだけど、あれから54年も経っているのよ? 夢か幻かもわからないことのために、危険な目に遭ってまで、無理をしてインドに行く必要もないわ」

「それなら、私の任務もここで終わりですね」冷めた口調でウィルカが言った。
「自分の目で、はっきりと見たわけでもないのに。行動もしないうちから、そうだと決めつけてしまう。もし提督が、これまでにもそんなふうにして航海を続けてきたのなら。それはただ、運がよかっただけ。ほかの誰かのおかげで、運よく生き伸びてこれただけ。そんな提督に、自分の命を預けて航海に出ることはできない。今ここで、私はこの船を降ります。どうか提督もお達者で」
そう言って、ウィルカは扉を閉めた。

……たしかに、彼女の言うとおりなのかもしれない。
バルトの白い風
女だてらに、七つの海を越えてきたアタシは、そう呼ばれて思い上がっていたのかもしれない。
アタシは、自分の無知と傲慢さを恥じて、閉じられた扉の前で立ち尽くした。


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「これより、ロンドンを出港する」
アタシは、イングランドの北東の方角に舵を向けた。
「ストックホルムに着いた後、我らの艦隊はインドに向けて出発する」
船首甲板の台座に据え付けられた時鐘が、出港の合図に打ち鳴らされた。
船員たちが手際よく各々の持ち場に散らばって、ペール・ギュント号の出航を促した。
その中にはもちろん、ウィルカの姿もあった。



~17世紀 スウェーデン~

ブリテン島を離れてから9日後。
アタシたちの艦隊は、北海の東に突き出たユトランド半島の沿岸をなぞりながらエーレスンド海峡を抜け、やがてバルト海に入った。

北海とバルト海の往来には、狭いエーレスンド海峡を通り抜けて航行するしかなく、海峡を領していたデンマーク王国以外のすべての国籍の船は、たとえそれが一国の王の船であろうと、デンマーク側に少なからずの通行税を支払わなければならなかった。

デンマーク王国の都コペンハーゲンからほど近い場所にある、海峡の関所クロンボー城に通行税を納めたアタシたちの艦隊は、その3日後には、スウェーデンの都ストックホルムに入港していた。

そこでアタシたちは、思いもよらない歓迎を受けることになった。
50年以上も前にストックホルムで建造されて、そのまま港のドックに保管されたままになっていた船とまったく同じ姿形をした19世紀の帆船が、ひょっこりと港に現れたのだから。
ストックホルムの人々が驚いたのも無理もないだろう。

その船は50数年前に(……正確には数年前なのだが)、アジアから帰ってきたアタシが全財産のほとんどを投げうって、ストックホルムの造船所に発注した船だった。
フレームやマストなどは鉄製ではないものの、アタシが提供したペール・ギュント号の模型と図面をもとに、造船所の親方が10年の歳月を費やして作り上げたというその船は、オリジナルのそれと寸分違わぬ見事な出来栄えだった。

「イングランドの女の船乗りが、いつか同じ船に乗って港に訪ねてくる」

発注した当時、すでに初老の域を過ぎていた親方が、船の完成を見届けた後、そう言い残して天に召されたことを、後を継いだ息子から聞かされた。
その息子もまた、あのとき会った親方と同じ年齢に達していた。

「ウィルカを、この船の船長に任ずる」
進水式が無事に済んだあと、アタシは、新船のデッキに整列させた船員たちに告げた。
「一番の新入りがいきなり船長だって? それも、できたばかりのたいそうご立派なこの大型船に? 俺は納得いかないな。こんな女が船長だなんて」
「女だから、何?」アタシは、その男の左頬に思いっきり平手打ちを食らわせた。
「ウィルカを船長に選んだのは、あなたたちの中で一番優秀だと私が判断したからよ。この船の船長であるウィルカに従えない者は、この艦隊の提督であるアタシにも従えない者ととして処断する。不服がある者は、この場で今すぐに船から降りなさい」
アタシの手形で真っ赤に頬を腫らした男も、ほかの船員たちも、降りようとする者はいなかった。

アタシの艦隊に加わった新しい船、ペール・ギュント号の姉妹艦は、ウィルカによって、「チャスカ」と命名された。



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アタシたちの噂は、すぐに港からストックホルムの街に伝わり、やがて王宮の知るところとなった。
つぎの日の晩、提督のアタシは王宮の晩餐に招かれた。
「北方の獅子」と称された偉大な先王、グスタフ2世アドルフ公の跡を継いでスウェーデン・バルト帝国の王となったのは、わずか6歳のヴァーサ朝王家最後の当主、クリスティーナ女王だった。

大きな碧眼の瞳に、赤味を帯びたクリーム色の巻き毛を額に垂らした天使のように愛らしい女王は、まだ6歳にも関わらずに流暢なスウェーデン語で臆せずに大臣たちと話し、王宮に招待された冒険者のアタシも舌を巻くほどの質問を矢継ぎ早に浴びせかけてきた。
驚いたのは、6歳にして、フランス語で著された哲学者ルネ・デカルトの書物を読破し、その教義をすべて理解していたことだった。
女王のそばに控えていた、冷徹で忠実なアクセル・オクセンシェルナ伯爵が、女王が成人するまでの間の宰相を務めていた。

エリザベス女王との謁見と違って、終始和やかな雰囲気で幼い女王との歓談を終えたアタシは、スウェーデン女王直々に握手を求められた。

「私の母も、おまえのようであったなら」

その小さな手を握ったとき、か細い女王の唇から、幼い子供には似つかわしくない、寂しげな笑みがこぼれた。



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「avreise!(出港!)」
翌朝。
アタシの乗る旗艦ペール・ギュント号を先頭にして、ウィルカのチャスカ号、殿(しんがり)にパリカール号と、一列に連なってストックホルムの港から出港した。

「そるべぃーぐ!」

インドへのアタシたちの船出を見物にやって来ていた群衆に紛れて、強面の宰相オクセンシェルナ伯の肩に乗った幼いクリスティーナ女王が、無邪気な笑顔でこちらに手を振っているのが見えた。
アタシも、ウィルカも、それぞれの船の上から、北欧の国の小さな女王陛下と地上の人たちに手を振り返した。


1632年。まもなく冬を迎える、11月の朝のことだった。
(つづく)



この文章は、コーエーテクモゲームス『大航海時代 Online』の世界観と舞台、登場人物をモチーフに、筆者ウィルカが創作したものです。
実際の『大航海時代 Online』のストーリー、その他とは直接関係ありません。



(C)コーエーテクモゲームス All rights reserved.




「大航海時代 Online 2ndAge プロモーションムービー」
 より




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