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2017年11月22日 (水)

『大航海時代 ~ノルウェーの乙女ソルヴェイグ 世界一周の航跡』 第三章「ティークリッパー」

第二章「時を越えた生涯の友人」からのつづき




「ティークリッパー」



「明朝、港で」

喫茶所で振舞われた冷たいチャイをラム酒のように一気に飲み干したアタシは、夜明け後に再び落ち合うことを約束してウィルカと別れた。

明くる日の早朝、アタシは船員全員を港に招集した。

「総帆展帆(そうはんてんぱん)、セイルドリル!」

アタシの号令を合図にして、幾多の航海をともにしてきた熟練のセイラーたちが、それぞれのマストのロアヤード(最下段のヤード=横帆を掛ける桁)に登って下から順番に帆を開いてゆき、半刻後には、26枚すべてのセイルドリル(全帆を総展開すること)が完了した。


日の出から一刻が過ぎたころ、約束どおりにウィルカが現われた。

オスマントルコの軍服を着たウィルカは、半ば放心した様子でアタシの船を見つめていた。

海の裏側から生まれた新しい太陽の光を受けて、真っ白なセイルの翼を空に広げた神々しい姿は、毎日見慣れているアタシでさえ惚れ惚れするものだった。


「メイン、ロアトップ、アッパートップ、トップゲルン……」

ウィルカはおもむろに、メインマストの6本のヤードに展開されている帆の名称を指差しながら数えだした。

そして下から5番目の帆を指し示したとき、彼女の指の動きが止まった。

「5番目の帆はロイヤルスル。一番上の帆はスカイスルというの」

フォア、メイン、ミズンとそびえている3本のマストの中で一番背丈の高いメインマストの頂上には、白地に赤い十字の王国旗……、イングランド王国の「セント・ジョージ・クロス」が青空に波打っていた。

「聞いたことのないセイルだわ」

「スカイスルなんて、世界には『クリッパー』くらいしか存在しないからね」

「クリッパー?」

アタシはその問いかけには答えず、船首の方向に向かってウィルカを先導しながら歩いた。


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「全長86メートル、全幅11メートル、バウスプリットを除いた船体の長さは横幅の5.9倍あるわ。旋回円が大きくなるから小回りは利かないけれど、華奢な身体のおかげで波の抵抗が少なくなる分、かなりの船足で走ることができる」

「船底が輝いているのはどうして?」

「喫水線から船底までの外板全体に銅板を貼っているからよ。フナクイムシやフジツボが船体を浸食するのを防ぐためにね」


船首の先から突き出たバウスプリットの先端から最前方のフォアマストにかけては、ジブスルと呼ばれる三角帆が3枚張られている。

ほかにも、フォアマストから中央のメインマストの間、メインマストから最後尾のミズンマストの間には、ジブスルと同じ役割を持つ合計5枚のステイスルが、さらにメインマストとミズンマストの後方には、スパンカーと名づけられた大きな台形型の帆がそれぞれ1枚ずつ張られている。

縦帆であるジブスルとステイスル、およびスパンカーを横帆に加えることで、横帆の船でありながら縦帆の利点も兼ね備えた航行が可能になると同時に、船の直進安定性を高めることができた。


ウィルカの目が、バウスプリットに吊り下げられているフィギュアヘッド(船首像)に向けられた。

「魔女のNannie(ナニー)よ」

豊満な乳房を剥き出しにした半裸の女の像が、舳先の彼方の海を睨みつけている。

大理石で彫られた魔女の左手には、不釣合いな「毛の束」が握りしめられていた。


……「むかしむかし。スコットランドのある村に、タムという名の若い農夫が住んでいました。ある夜、愛馬に乗って出かけていたタムは、森の中で狂ったように踊っている魔女たちの姿を偶然に見てしまいました」

「タムは、魔女たちに見つからないように息を潜めてその様子を伺っていましたが、魔女の一人、カティ・サークの下着を胸まで露にした『ナニー』の妖艶な姿に魅了されたタムは、『カティ・サーク!』と、思わず声を上げてしまいました」

「さあ大変! 秘密の宴を人間の若い男に見られたことを知った魔女たちが、タムを殺そうとして追いかけてきたのです。悪魔のような恐ろしい形相をしたナニーが、馬に乗ったタムを捕まえようとして手を伸ばしたとき、ナニーの左手に掴まれた馬の尻尾が根元から引きちぎれてしまいました。そして、すんでのところでタムの命は助かり、無事に村まで逃げることができたのでした。めでたしめでたし」


……「そのときに引きちぎれた馬の尻尾が、あの毛の束なのよ。その魔女が船首像になって、アタシたちの船の『守り神』になってるってわけ。ファンタスティックなお話じゃない?」

敬虔なムスリムの女性でもあるウィルカは、夫以外の人間の前で肌どころか乳房まで曝け出しているナニーに眉をひそめた。

アタシはウィルカの手を引いて、ペール・ギュント号の甲板に登った。


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「この甲板には、アジアの熱帯雨林で採れるチークという特別な木材を使ってるの。外板には楡(ニレ)の木から削りだした素材を貼っているのだけど、耐水と防腐のためにコールタールを塗っているわ。船体が真っ黒なのはそのせい」

松脂の塗られた甲板の表面は、毎日船員たちにデッキブラシで磨かれているおかげで、英国女性の肌のように滑らかな手触りと艶を保っていた。

潮風に焼けたコールタールと脂の臭いが太陽の光と混ざり合い、乾された毛布にも似た心地よい香りが鼻につく。

「デッキハウスや他の艤装なんかも基本的には木製なんだけど、船体の骨組みとなるフレームをはじめ、メインマスト全部とフォアマストの根元部分、それから、各マストのすべてのロアヤードは鉄製なのよ」


「すごいわ」

ウィルカは、錆び止めに白い塗料が塗られた分厚いメインマストに手を触れた。「鉄のマストなら、どんな強風でも折れることはないでしょうね」

「そうよ。あとね、この船の船首甲板にはトイレがあるの。左舷側が男用。右舷側が女用。この船に女はアタシ独りだけだったから、今まではずっとアタシ専用だったけれど、これからはあなたもここを使うといいわ」

棺桶を床に立てたような形をした木製のトイレには扉があり、外からは中の様子がわからないようになっていた。

もともと、船は男の乗り物だった。大も小も、そのまま海に済ませてしまえばいいのだが、女の場合はそうもいかない。

人目を気にしながら事を済まさなければならなかった女の船乗りにとって、これほどありがたいものはないだろう。

甲板にはトイレのほかにも、船員たちが詰めているデッキハウスと、緊急脱出用および作業用のボートが4艘、航海用の大きなコンパス、それに鶏小屋まで付設されていた。

小屋で飼われている雌鳥たちは、毎朝新鮮なタマゴを供給してくれるばかりか、いざとなればそのまま肉にもなる。


「なにもかもが、すばらしい船だわ」

でも……。と、ウィルカは甲板の縁の手摺りに寄りかかって船全体を見渡した。

「これだけの船なのに、大砲が一門もないなんて。それに、船体がタンブルホーム(ブランデーグラスのように下部が膨らんで上部の縁が狭くなっている湾曲した船体の形)の体を成していない。これだと、敵艦に接舷されたら距離も取れなくて簡単に斬り込まれてしまうわ。この船はまるで……。そう、初めから戦闘のことなどまったく意識しないで作られているみたいに」

「そのとおりよ」

アタシは、船尾の最後尾にあるステアリングホイール(操舵輪)が取り付けられた操舵箱をウィルカに示した。

“Peer Gynt” 

船名の下にあるプレートに記されている英文を、ウィルカは読んだ。


『Scott & Linton Dambarton 1869』


「この船はね、『ティークリッパー』といって、19世紀の終わりに中国から英国まで紅茶を届けるために作られた船なの。いかに速く、いかに多く。その究極を具現化した帆船の極致、それが『クリッパー』という船よ。輸送船に武装なんて必要ない。もっとも、大砲を取り付けたところで、撃つ相手もいない時代だけどね」


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「……あなたは、『ほかの世界』から来た人なの?」

「そうだとしたら?」

(つづく)



この文章は、コーエーテクモゲームス『大航海時代 Online』の世界観と舞台、登場人物をモチーフに、筆者ウィルカが創作したものです。

実際の『大航海時代 Online』のストーリー、その他とは直接関係ありません。



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