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2017年7月17日 (月)

猫の泉

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私の好きな漫画で、獣医師を目指すH大学獣医学部の学生「ハムテル」と、シベリアンハスキーの愛犬「チョビ」たちとの共同生活が描かれた、佐々木倫子氏の『動物のお医者さん』という漫画の作品中に、「猫の泉」という回があった。

ハムテルの友人で、同じ獣医学部の学生の二階堂が、夢か現かわからない世界で仙人のような不思議な老人に出会い、論文作成のために自身が研究していた「猫の身体に存在する雑菌」のサンプルを採取するために、その老人に教えられた、街のどこかに存在するという、たくさんの猫たちが集まる幻の「猫の泉」を求めて奔走するという内容だった。

結局は、その「猫の泉」は幻でもなんでもなく、ビルの狭間に忘れられたように存在していた小さな公園の水道栓の壊れた古い噴水に、野良猫たちが水を飲みに集まっているというオチだったのだが、「猫の泉」ではないものの、その話と同じように、たくさんの野良猫たちが集まっている場所が、私の知っている現実の世界にも実在していた。



その場所は、郵便配達員である私が配達を担当している区域のひとつで、ある集落の中の古い民家なのだったが、私がいつ配達に訪れても、その家の庭にはたくさんの野良猫たちが集まっているので、私はその家のことを、あの漫画の話に例えて、「猫の泉」と密かに呼んでいた。

どうやら、猫好きのその家の住人が猫に餌を与えているらしく、そのご馳走目当てに付近の野良猫たちが集まってきているようだった。

正確な数は覚えていないが、ざっと見た感じでも、十匹~十五匹は下らない数の猫が、いつもその家の庭に屯(たむろ)していた記憶がある。

夏の暑さに猫たちがやられてしまわないようにという、住人の配慮なのだろうか。角ばった鰻の寝床のような、ガラスのない水槽の骨組みだけを横に繋ぎあわせた二~三メートルほどの細長い空間の、屋根と側面に当たる部分に筵(むしろ)を垂らせて、その中で猫たちが餌を食べられるようにと、空っぽの皿がいくつか並べられていた。

配達のために私が近づいても、人間に馴れているのか、野良猫たちはこちらの動きを視線で追うだけで、私のことなども怖がりもせず、庭の日陰で寝そべっていたり、身体を舐めて毛繕いをしていたりと、それぞれが思い思いに自分たちの空間を満喫していた。

餌時の夕方ごろに訪れると、野良猫たちがその筵の水槽の周囲に集まって、中に置かれた晩ごはんをおいしそうに食べている光景が、いつものように見られた。



いまから、一ヶ月~一ヵ月半ほど前あたりだったろうか。

あれだけ集まっていた野良猫たちが、いつのころからか、その家の庭からばったりと姿を消した。

その家ばかりでなく、付近にも、一匹の猫の姿さえ見かけないようになっていた。

あれだけいた猫たちは、いったいどこに消えてしまったのだろう?

速達を届けるために朝に来ても、書留の配達のために昼に来ても、夕方、一日の配達が終わって局に戻るついでに通りがかっても、猫たちの姿を見る日は、それから一度もなかった。

不思議に思いながら配達を続けていたある日。

私の運転しているカブを追いかけるようにして、小さな自転車に乗った女の子が、狭い路地を後ろからついてきた。

「あの、すみません」

茶色の髪に染められた、まだ小学校低学年くらいの女の子が、バイクから降りた私にふと声をかけてきた。

「この近くに、『ねこやしき』、ないですか?」

女の子は、ピンク色に塗られた子供用のかわいらしい自転車に跨ったまま、道に迷ったように、不安げな目で私を見上げて言った。「猫が集まってる家があるって友達に聞いて。そこで猫に触ってもいいって」


…ああ。たぶん、「この家」のことだろう。


ちょうど、配達する手紙があったので、その家の前でバイクから降りたところだった。

私が教えてあげようとすると、「ねこやしき、どこかな」女の子はうわごとのようにそう呟きながら、路地の向こうへと自転車をこいで走り去ってしまった。

本当に、あれだけいた猫たちは、どこにいってしまったのだろう?

私は思いながら、かつて猫たちが集まっていた、筵の掛けられた細長い水槽のようなその餌場を見た。


…もしかして。あれって、檻?


この家の住人が「猫好き」だったのではなく、実は「その逆」だったとしたら?

しゃあしゃあという、梅雨の終わりを告げるクマゼミのうるさく鳴く声だけが、猫の消えたその場所に存在していた。

(了)



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